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はじめに


平成10年度公私大協シンポジウム企画
大学間の垣根を越える実験動物


公私大協企画委員会
磯貝 浩(札幌医科大学)、米田嘉重郎(東京医科大学)、古館専一(北里大学)、木内 寛(横浜市立大学)

 大学の共同研究施設である動物実験施設(実験動物施設)は、自らが研究機関として医学研究に貢献すべき立場であるとともに、大学の研究をサポートする機関としての機能を期待されている。これは一般の講座とは異なる特殊性であり、それ故に生じる悩ましい問題が数々ある。さらに、動物実験は個々の大学で実施されているが、その結果は医学をはじめとする生命科学という分野で国境さえも越えて共有されてきている。こうした観点から見ると、動物実験施設(実験動物施設)の悩みというものは個別の大学にのみ存在するものではなく、大学や研究所の枠を越えた共通の問題として存在していることがあきらかである。もちろん、個々の大学での努力でのみ解決できる事柄も多いが、大学の枠を越えて解決のための努力を必要としている事柄が圧倒的に多いということである。
今回のシンポジウムでは、東北大学の笠井先生から「遺伝子操作動物」の問題について、また長崎大学の佐藤先生から「大学間での実験動物の授受にさいしての感染症」の問題についてお話をいただいた。笠井先生のご講演にもあったように、全国的に見てTg動物の数は級数的な増加を示している。これは、ジャクソンラボのカタログの内容と厚さの変化を見ても明かである。一般的にTg動物は施設での繁殖伴うため、施設がブリーダーを兼ねる必要が生じてきている。これは、動物実験施設(実験動物施設)の設置時には想定されていない「施設の機能的な変化」といえる。また、研究が大学間で止まらず海外も含めた広い範囲で実施されるようになったため、実験動物の施設間での往来が旧来では考えられないほど頻繁に行われるようになってきた。こうしたことは、国立、公立、私立などの大学の設置者の相違などには全く関係がなく、動物実験という極めて広い領域で共通の問題として解決する努力を必要としている。現実はまさに、実験動物が大学の垣根を乗り越えて襲って来ていると言えよう。笠井、佐藤両先生のご講演は大学間に存在する共通の課題としての「遺伝子操作動物」と「感染症」の問題を取り上げたものであり、我々公私立大学にとっても極めて興味深いテーマである。このシンポジウムを一つの機会として、問題解決のための一助となれば企画した者として幸いである。
公私大協のシンポジウムは毎年の総会に合わせて開催されてきた。平成7年度に阪神神戸大震災の体験を兵庫医科大学の城先生からお聞きしたのが第1回目のシンポジウムである。その後、各大学間で共通の問題と思われるものを企画部会(現企画委員会)がコーデイネートして順次取り上げてきたが、平成10年度で第4回目を数えるようになった。今回のシンポジウムから、ご講演をいただいた講師の方に講演の内容を簡単にまとめていただき、公私大協の記録誌及びホームページに掲載させていただくこととなた。講師の先生方には大変なご負担を強いることになり恐縮であるが、講演の内容を具体的に把握することができるようになるとともに、後日に利用しやすくなると思われる。本来であれば、第1回目からこうした記録を保存すべく努力すべきであったと反省をしている。