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2.「大学動物実験施設間での実験動物の授受に関する感染症対策」


長崎大学医学部附属動物実験施設 佐藤 浩
  



 文部省告示第84号で公布・施行、さらに文学助第286号で通知された(両方とも平成10年4月30日付)ように、組換えDNA実験安全指針の改正が最近行われた。遺伝子操作動物(改変を含む:以下TgAと略)の大学間での授受はこれまでにないスピードで行われる可能性があり、研究者にとっては喜ばしい反面、施設管理側としてはその対処に頭が痛い面もある。TgAを始めとする実験動物の授受が何の約束ごとや規制もなく行われば、大学の動物実験施設はなし崩し的に病原体汚染に見舞われる危険性がこれまで以上に高まってきたといえる。
 実際、TgAの機関間における授受はここ数年来各大学施設で増加しているが、これらのケースには国内間もあれば国外からの輸入もある、さらに逆の輸出のケースもある。また作製・供給に関しては新しく国立のセンター化構想の実現もあり、各施設では今までと違ったシステムの再構築を迫られそうな状況にある。
 このような背景と経緯を踏まえ、①TgAを含めた実験動物の授受の際の微生物学的問題に対する国立大学(国動協)の動き、②長崎大学医学部附属動物実験施設におけるTgA増加への対応例について述べる。

1.授受の際の微生物学的問題と大学における対応(ソフト面)
実験動物の授受に対して特にTgA関係では、組換えDNA実験に準ずる実験として「大学等における組換えDNA実験指針」に沿った対応をする必要がある。上記したように指針が改正されたので、施設への導入が極めて敏速に行われる時代を迎えつつあるが、しかし、施設管理者サイドとしては現実的には授受の際の微生物感染問題が横たわっている。
このことから、国動協、公私動協では実験動物授受の際に導入判断の手がかりとなる微生物検査項目やその他を定め、少なくとも大学施設間での授受をスムーズに行いたいと考えており現在その作業が進行中である。ここでは国動協で作成した「実験動物の授受におけるガイドライン(案9805)」を例示する。
授受に関しては、本文の「実験動物の授受に関するガイドライン-マウス・ラット編-」に基づいて行うが、その内部構成は、表1(実験動物授受の際の微生物学的ステータス)や、様式1、2である授受の際の「分与依頼書」及び「分与動物受領書」、さらに「実験動物授受のための動物健康及び飼育形態調査レポート-Rodent Transfer Report-」から成っている。具体的授受の際の流れは図1の如くである。

表1.実験動物授受の際の微生物学的ステータス(link解除)
図1.実験動物授受の際の流れ(link解除)

 要するに、分与動物に関する微生物検査書も重要であるが、それ以上に「レポート」から収集される分与施設における動物健康及び飼育形態等を重視し、実験動物を導入する際の判断資料としている点が新しいポイントである。

2.長崎大学医学部附属動物実験施設におけるTgA増加への対応例(ハード面)
TgAが右肩上がりに増加してくると飼育スペースの問題が大きくなってくる。また作製を行っている施設ではそれら周辺関係のスペースも必要とするし、保存等も考慮しなければならない。実際どこの施設でもそれら動物の収容スペースと実験スペースに頭を悩ましているのが現状である。
長崎大学医学部附属動物実験施設でもまさに同様な状況であったが、幸い本施設では平成8年度(平成8年10月~9年3月末)の半年間で、主として空調関係機器の更新工事を行い、さらに臭気・アレルゲン対応として全館の空調方式の見なおしをすると共に、同時にTgA用飼育スペースの確保・作製用実験室の整備、並びにこれら動物用飼育装置の検討を行った。その概要は次の通りである。
ニーズへの対応策(表2)
「研究ニーズ」に対しては、昨今、飼育数が減少気味である中大動物(ウサギ・イヌ)用飼育室の見直しと共に、各実験室の見直し・用途転換も積極的に行った。飼育室の既設の壁・ドアーの撤去、あるいは逆にこれらの新設、さらに飼育機器の移動や中央化された空調系区域の拡大・新規導入等の構造的な大幅改造、貴重なTgAを微生物的に保護すべく新しい各種飼育装置類の導入も行った。また各実験室の見直し関係では、最近のニーズに対応できるように、情報コンセントを始めとする各種配管類の新設やさらに実験室の配置をも変更した。その一例としては、免疫系実験室の充実、また発生工学実験室の充実及びTgA飼育室の隣接への配置変更等も行った。


表2.改修工事に対する主なニーズ


1.更新ニーズ
・基幹設備
・飼育装置類
2.研究ニーズ
・TgA動物や免疫不全動物飼育用スペース確保のための各種動物飼育室の見直し
・発生工学実験室の整備・充実
・既存各種実験室の見直しと用途転換
3.環境ニーズ
・臭気・アレルゲンの軽減
・省エネルギー化
4.その他のニーズ
・自動化(ドア、照明、その他)
・情報化(ハブ、コンセント等を実験室に増設)

 「環境ニーズ」に対しては、空調方式の大幅な見直しを行うことであった。しかし、この際最も大きな問題となったのが、改修工事後における飼育管理作業能率を如何に低下させないかであった。当施設では、特殊実験内容の動物管理を除き、ほとんどの飼育管理業務を施設職員スタッフが行っており、少々の能率低下も積み重なると職員の負担増加、あるいは人員雇用増加要求へと繋がる危惧が存在したからである。
中・大実験動物由来の臭気やアレルゲンの軽減を可能にし、かつ、コスト面や飼育 管理作業上の両面を検討した結果、ロールスクリーン方式を使用した一方向性気流空調方式を採用した。この方式をイヌ・ブタ・サル・ウサギ飼育室等中・大実験動物飼育室に採用したが、頻繁に清掃する機会が多い排気側プリフィルターの位置も工事の際考慮された。
ウサギ・モルモット飼育室の改造例では、飼育室の1/3をTgA用スペースに確保するため隔離壁を新設し、また空調系も別系統に変更した。ダブル2台が設置されていたウサギ自動飼育装置を囲むような形でロールスクリーンを降ろし、真中通路の両端にダブルスイングドアを設置して空調系を外から内への一方向性にした。その結果、2台の飼育装置を囲む外側から給気、内部から排気するかたちになり、ほぼ完璧に毛の飼育室拡散や臭気を防ぐことが可能となった。また、激増するTgA用飼育スペースを拡張すべく、ウサギ室の1/3に昨今米国を中心に広く採用されつつあるマイクロアイソレーター(アレンタウン社製:マイクロベント型及びマイクロフロー型)を十数台導入し対応した。
イヌ・ブタ・サル飼育室もほぼ同様なかたちでロールスクリーン採用による一方向性気流空調方式を取り入れ、臭気並びにアレルゲンの軽減に対応すると共に飼育室の見直しを行い、小動物用飼育室のスペースを確保するよう努力した。さらに、旧来のオープン型飼育棚やクリーンラック等によって飼育していたところを、今回の改修工事に伴って新型飼育装置類(陽圧型、陰圧型:トキワ製背面排気飼育装置、セーフティー型及びクリーン型)を約90台導入することにし、そのための空調系の工事、具体的には各飼育室に排気ダクトを装置の数量分だけ新設し、直接装置から排気出来るようにした。これにより陰圧型(クリーン型)の場合は臭気やアレルゲンの軽減、あるいは陽圧型(セーフティー型)装置では免疫不全動物をはじめ、最近増えてきているTgAによる易感染動物の飼育に対応可能とした。

終わりに
国動協におけるTgA関係を主とする実験動物授受の際のガイドライン(案9805)と、我々の施設で行った改修工事を紹介した。これらのハード及びソフトの両面がうまく噛み合わさって、「実験動物の施設間授受の際の感染症対策」や「動物実験施設における一般的感染症対策」のゴールに達することを願っている。最後に貴協議会が今後益々発展することを祈り上げます。